2010/07/03

大山詣(おおやまもうで)


【   大山詣(おおやまもうで) /(平塚市・厚木市)   】


  むかし、須賀(すか)の男が、仲間と大山の石尊さんへ、お詣りに行くことになった。

  出かけるとき、縁台(えんだい)に腰かけて、気がせくもんで、 あわてて脚絆(きゃはん)をつけて立ち上がったら、縁台の脚が脚絆をはいてた。

  さらに歩いていると、腹がへってきた。 そこで弁当を食べようとして、 腰につけてきたふろしき包みをほどいてみたら、弁当のかわりに女房(にょうぼう)の枕が入っていた。

  さて、わいわい言いながらも、どうにか大山の石尊さんへとやってきた。 そこで、五十銭持ってきた中から、おさい銭の一銭を左手に用意し、残りを右手にしっかりつかんで、 神社までやってきた。
  さい銭箱の前で、パッと、いきよいよく投げたら、四十九銭の方を、ほうり込んじゃった。

  なんてそそっかしいんだと、思ってもあとのまつり、腹がへってしょうがないので、 とりあえず残った一銭でまんじゅうを買うことにした。
  一銭はらって、いきなり店先にあったのを口に入れたら、見本にかざってあった張り子のまんじゅうだった。

  さんざんな目にあった男は、大急ぎで須賀にもどり、
「おーい、今戻ったぞー」
と言って、いきなり家に上がり込むと、となりの家だった。


―――― おわり ――――




  須賀(すか)は、相模川の河口にある平塚の漁港。 江戸時代、 平塚は東海道の宿場町として栄えていたが、須賀は、「須賀千軒」と言われたほどで、 相模川流域の物資の集散地として、宿場町よりも栄えていたと言われている。
  この話にでてくる『とんきょ』とは、すとんきょの意味で、「とんきょ話」は、 こっけいな、おもしろい話を集めたものです。
  大山詣(おおやまもうで)の話は、そそっかしい男の話で、落語にも同様の話が、 いくつかあり、よく知られた話ではある。


  ・ (かながわのむかしばなし50選)より






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