むかし、須賀(すか)の男が、仲間と大山の石尊さんへ、お詣りに行くことになった。
出かけるとき、縁台(えんだい)に腰かけて、気がせくもんで、 あわてて脚絆(きゃはん)をつけて立ち上がったら、縁台の脚が脚絆をはいてた。
さらに歩いていると、腹がへってきた。 そこで弁当を食べようとして、 腰につけてきたふろしき包みをほどいてみたら、弁当のかわりに女房(にょうぼう)の枕が入っていた。
さて、わいわい言いながらも、どうにか大山の石尊さんへとやってきた。 そこで、五十銭持ってきた中から、おさい銭の一銭を左手に用意し、残りを右手にしっかりつかんで、 神社までやってきた。 さい銭箱の前で、パッと、いきよいよく投げたら、四十九銭の方を、ほうり込んじゃった。
なんてそそっかしいんだと、思ってもあとのまつり、腹がへってしょうがないので、 とりあえず残った一銭でまんじゅうを買うことにした。 一銭はらって、いきなり店先にあったのを口に入れたら、見本にかざってあった張り子のまんじゅうだった。
さんざんな目にあった男は、大急ぎで須賀にもどり、 「おーい、今戻ったぞー」 と言って、いきなり家に上がり込むと、となりの家だった。
―――― おわり ――――
須賀(すか)は、相模川の河口にある平塚の漁港。 江戸時代、 平塚は東海道の宿場町として栄えていたが、須賀は、「須賀千軒」と言われたほどで、 相模川流域の物資の集散地として、宿場町よりも栄えていたと言われている。 この話にでてくる『とんきょ』とは、すとんきょの意味で、「とんきょ話」は、 こっけいな、おもしろい話を集めたものです。 大山詣(おおやまもうで)の話は、そそっかしい男の話で、落語にも同様の話が、 いくつかあり、よく知られた話ではある。
・ (かながわのむかしばなし50選)より
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