2010/07/01

夜なべに夜鍋(よなべ)


【   夜なべに夜鍋(よなべ)/(厚木市)  】


  むかし、久助という人がいました。
  あるとき、主人に、
「久助、もう九月の彼岸もとっくにすぎた。
それなのに、おまえは夜遊びばかりしている。
夜もかなり長くなったのだ。
夕飯の後だって、少しはよなべをしてくれなきゃこまるよ」
といわれて、久助は、

「どうも夜遊びがおもしろくてね、すっかりわすれてやした。
よし、その分を今夜からどっさりやりましょう。
そのためにゃ用意しなけりゃいけねえ。
ちょっくら、その鍋(なべ)をかしてくだせえ」

  夕食後、しばらくして、主人が久助の部屋に行ってみると、仕事どころか、 先ほどの鍋に芋をいっぱい煮て、いかにもうまそうに食べています。
  主人が、
「いったい、夕食にあんなに食べて、すぐによくそう腹に入るな」
というと、久助は、
「まったく、だんなもそう思うでしょう。
いわれるあっしだってちっとも楽じゃねえ。
夕食食ってすぐにこう休みなく、でかい鍋かかえて、こんなに夜なべまでさせられちゃあ」
と、いいました。



―――― おわり ――――




  厚木地方に伝わる「とんちの久助」さんのとんち話の1つです。
  これに似た話は、ほかの地方にも分布しています。
  秋の彼岸を過ぎると、昼間より夜の時間が長くなるので、むかしの農村では、 夕食の後に、夜仕事をするのが習慣となっていました。
  この時の夜食は、たいへん質素なもので、芋は上等なほうだったと言うことです。

  この話は、夜仕事の『夜なべ』と、夜食の『夜鍋(よなべ)』をかけた、ダジャレ話といえます。


   (かながわのむかしばなし50選)より






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