むかし、久助という人がいました。 あるとき、主人に、 「久助、もう九月の彼岸もとっくにすぎた。 それなのに、おまえは夜遊びばかりしている。 夜もかなり長くなったのだ。 夕飯の後だって、少しはよなべをしてくれなきゃこまるよ」 といわれて、久助は、
「どうも夜遊びがおもしろくてね、すっかりわすれてやした。 よし、その分を今夜からどっさりやりましょう。 そのためにゃ用意しなけりゃいけねえ。 ちょっくら、その鍋(なべ)をかしてくだせえ」
夕食後、しばらくして、主人が久助の部屋に行ってみると、仕事どころか、 先ほどの鍋に芋をいっぱい煮て、いかにもうまそうに食べています。 主人が、 「いったい、夕食にあんなに食べて、すぐによくそう腹に入るな」 というと、久助は、 「まったく、だんなもそう思うでしょう。 いわれるあっしだってちっとも楽じゃねえ。 夕食食ってすぐにこう休みなく、でかい鍋かかえて、こんなに夜なべまでさせられちゃあ」 と、いいました。
―――― おわり ――――
厚木地方に伝わる「とんちの久助」さんのとんち話の1つです。 これに似た話は、ほかの地方にも分布しています。 秋の彼岸を過ぎると、昼間より夜の時間が長くなるので、むかしの農村では、 夕食の後に、夜仕事をするのが習慣となっていました。 この時の夜食は、たいへん質素なもので、芋は上等なほうだったと言うことです。
この話は、夜仕事の『夜なべ』と、夜食の『夜鍋(よなべ)』をかけた、ダジャレ話といえます。
(かながわのむかしばなし50選)より
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