2010/06/13

狼の恩返し


【  13.狼の恩返し /(愛甲郡・津久井郡)  】


  むかし、佐野川村に源作という、猟師仲間でも「一つ弾の源」といわれるほど腕もたしかで、 どきょうもある猟師がいました。

  ある日、源作が猟からもどって、いろりばたでお茶を飲んでいると、外でおかしなうなり声がします。
  源作が出てみると、大きな狼が口を大きくあけて、苦しそうに首をふっていました。 何かを訴えているようにも、 たのんでいるようにも見えます。

  源作はどきょうをすえて近づいて、口の中をのぞくと、骨がのどにささっているのでした。
  源作は、
「かみつくでねえぞ、飛びつくでねえぞ」
と、くりかえし狼にいいながら、口の中へ手を入れて骨を取ってやりました。
  狼は、いくたびも後をふりかえりながら、山へ帰っていきました。

  明け方近く、源作のおかみさんが、便所へ行こうと戸を開けて出ると、 何かやわらかいものをふみつけたので、びっくりして家の中の源作をおこしました。

  源作が起きて、ちょうちんを持って行ってみると、毛なみのふさふさした、 みごとな兎が置いてありました。
「さては、あの狼が骨を取ってもらった恩返しに持ってきたのだろう。
それにしても、こんなりっぱな兎は、わしもはじめてだ」
と、源作とおかみさんは、喜んで話しました。


―――― おわり ――――




  この昔話も、全国的に広く分布し、狼がお礼に持ってくるものには、 猪・雉・兎などがあります。
  わが国では狼はヤマイヌとも呼ばれ、地方によっては古くより山の神のお使い、 あるいは神性をもつ動物のように考えられていたこともあり、 猟師もこれを捕らなかったといいます。

  関東地方でも秩父の三峰神社、奥多摩の御嶽神社では、 古くから狼はお使い神とされ、狼の姿を刷ったお札を発行していて、 これを戸口にはっておくと、火災・盗難よけになると信じられていた。
  この話でも、恩を感じ、義理堅い獣として語られている。

  しかし、わが国では明治期になりその姿を見たという目撃例も途絶え、 以後絶滅したとも言われている。


  (かながわのむかしばなし50選)より






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